WBCが終わった


WBC決勝は近来稀にみる内容の濃い、面白い試合であったが、ゲーム観戦の面白さってなんだろうと考えてみたとき、[観衆の感じる面白さ] = [ゲーム自体の面白さ]+[ゲームにかける想いの強さ]+[ゲームの勝敗への満足度]という図式を思いついた。
この図式から考えれば、WBCはUSAの人たちにはひどくつまらない大会に映ったに違いない。そもそも今回のUSA代表チームが国内のベストメンバーを結集したチームであると納得できないことに加え、負けているのにレギュレーションのせいで居残ってはまた負ける……、不愉快極まりなかったのではないだろうか(もっとも、ベストメンバーを組んで同様の成績に終わったならば、さらに不快感がつのったに違いないが)。
さらに言えば、あくまでもそれはWBCに関心を持った米国民に限っての話であって、USAでいったいどのくらいの人がWBCに関心を持っていたのか、もっと言うならば、どのくらいの人にWBCの存在が認知されていたのか。Jリーグ誕生以前のトヨタカップのような認知度ではないかと私は勝手に想像しているが、本当のところはどうなのだろう。
USA国内での盛り上がりには、まずベストメンバーの招集が不可欠なものと考えられるが、MLB各球団の反応を見ていると、今回の惨敗を受けてすら、4年後にそのような機運が盛り上がることは期待薄に思われる。あとは、USAのメジャーリーガーのプライドに賭けるしかないだろう。
これは、今後のWBCを考えていく上でとても重要な課題だと思う。USA国内での盛り上がりなくしては、WBCという大会の権威というか格も生まれにくい。そのような状況だと、自国本位の考えで恐縮だが、日本にとってWBCで勝つ意味が真に深まることはないし、日本の野球に対する認知度がUSAで高まることもないだろう。
日本にとってだけではない。他のプロスポーツリーグと伍して戦おうと米国内でのプロモーションを意図するとき、これだけ各国が力を入れ始めたWBCというイベントの認知度を米国内で高めることはMLBにとって重要な課題であると思う。いつMLBは本気になるのだろう。


MLBにとってのWBCの意義とは何かと考えてみた。
1) 参加各国での放映権料の獲得、関連グッズ収入などの商業的な成功
2) 参加各国へのMLBのプロモーション
3) 新戦力の発掘
ざっとこんなもんだろうか。
1)に関しては、エントリを書くためにわざわざ調べるのが億劫なので、詳細には触れることができない(ものぐさなスタンスでやっているもので……。どうもすみません)。ただ、1)は現実的な稼ぎという面だけに留まらず、2)のプロモーションの意味も兼ね備えているのだろう。
おそらく、MLBはメジャーリーガーたちが各国代表として優れたプレーを競い合う場としてWBCを用意し、その結果、そういった秀でたプレーヤーたちが世界中から集う唯一無二のリーグ、MLBの素晴らしさを参加各国にプロモーションすることによって世界市場を拡大しようという目論見を持っているだろうと推測する。
今回、日本チームに参加したメジャーリーガーはイチロー、城島、岩村、福留、松坂と大幅に増えた。しかし、彼ら日本人メジャーリーガーは、私の感覚として、メジャーリーガーである以前に日本人プレーヤーである。いくら彼らが活躍しようが、それは日本人選手の活躍であり、彼らのプレーからメジャーリーグの素晴らしさは伝わって来るはずもない。
私は、対USA戦を開始から終了まで全く観戦できなかったので、結局メジャーリーガーとして意識したのは韓国の秋信守ただ1人(彼にしても、むしろ韓国の選手という意識が強い)。韓国サイドから日本のメジャーリーガーを見ても、おそらく同じような意識だろうと想像する。
MLBのプロモーションを目的とするならば、日韓が5度戦うような組み合わせではなく、両国がもっと異国のメジャーリーガーと対戦するような組み合わせにすべきだったのではないだろうかと思う。もっとも、今回の日韓両チームの充実度を考えれば、まだ深手を負わなかったともいえるが(笑)。
3)に関しては、できることならこれ以上のメジャー流出は勘弁して欲しいというのが本音である。しかしながら、同じ働く者の気持ちとしてNPB主力選手のメジャー志向は十分理解できるし、何よりNPBMLBでの雇用条件があまりにかけ離れているため、やはり仕方がないことなのだろうとも感じている。
これは、おそらくどこの国の国内リーグでも抱えている問題だろう。各国の国内リーグの労働環境がさらに成熟し、MLBと肩を並べる日が1日も早く訪れることを願っている(ひょっとすると、MLBが衰退することで肩を並べる日が訪れる可能性のほうが高いかもしれない)。


最後に感想を。
NPBにとっては国内に向けてよいプロモーションになったと思う。野球中継と疎遠になっている人たちの中には、岩隈、杉内、内川、村田、中島、片岡などといった選手たちのプレーを初めて目にした方も多かったのではないか。メジャーへの流出はこれからも続くのだろうが、まだまだNPBにも素晴らしいプレーヤーが大勢いることを改めて嬉しく感じる。どの選手をとっても、本当にひたむきなプレーが心に残った。
大会全般を通じて、中途半端な起用になった一部の選手には気の毒ではあったが、侍JAPANの戦力はとてもバランスよく機能したと思う(ただ1人、福留の元気がなかったのが心配だ)。大会前、国際試合に強くユーティリティープレーヤーでもある西岡の不在が気になっていたが、岩村、中島、片岡、川崎の4人で、村田を欠いた後でさえ、2塁、遊撃、3塁は十分機能していた(勿論、栗原の追加招集や小笠原の存在はあったが)。本当によい人選だったと思う。
日韓の原、金両監督は、ともに抑制の効いた紳士的なコメントを残し、好感が持てた。


しかし、原監督。髪の色や長さに関しては余計なお世話だと思います。