『万引き家族』〜家族とはなんだろう〜

安藤サクラが尋問されるシーンを観ていて、あるフレーズを思い出した。 「いろいろ事情があるんだろうよ……」 伊集院静の『大人の流儀』に収められている『妻と死別した日のこと』の冒頭の一節である。 伊集院少年と彼の弟が、夕闇迫る路地で、女湯の高窓に張…

 「奪われた野にも春は来るか」鄭周河(チョン・ジュハ)写真展に行く

写真の中の、もとより人影の乏しい、あるいは、意識的に人影を排した山間や田園の景観は、穏やかで、静かで、拍子抜けがするくらいありふれた日常的な風景にみえた。 地震や津波の爪痕がくっきりと残された写真を視なければ、福島県南相馬市周辺の地域で撮ら…

まど・みちお さんを偲ぶ

「耳からね、こんなところからね、毛が生えているんですよ。『これは、詩にするしかない!』と思いましたね。」と、詩人は、嬉しそうに語っていた。 老いていく自分と、その自分の中から新たに生まれてくる耳毛という生命の息吹。その対比の面白さと、自分の…

 ソチ五輪のフィギュアスケートを観て考えたこと

ソチ五輪フィギュア男子フリーの最終組の演技が進むにつれ、苛立ちがつのっていくのを感じていた。この満たされぬ思いは、いったい何なのだろう。 緊張感のためか、リンクに上がる選手が次々に失敗していく。こんな最終組は、あまり見た記憶がないなぁ…、と…

 『ペコロスの母に会いに行く』〜人と記憶〜

見当識という言葉をご存じだろうか。 見当識とは、自分を取り巻く環境の中で、自分が置かれた状況を正しく認識する能力のことである。 すなわち、時間の流れの中で「今という時」を感じ、自分が存在している「場所」を知り、さらに、周りの人と自分との間に…

 忘れてはならないこと

様々な物議をかもして、金賢姫が韓国へ帰って行った。 めぐみさんが何匹か猫を飼っていたことや、チヂミでおもてなしをしたといったような僅かなエピソードを一所懸命に語る横田さんご夫妻のお話には、胸に込み上げるものを感じた。「安心した。」とさえ語る…

 地域で生きていくということ

慣れ親しんだ土地で生涯暮らして行こうと思うとき、歳をとるにつれて、いろいろな問題があることに気がつく。 毎日の食事は、どうするのか。どこへどうやって買い物に行って、誰が作って、配膳をして、後片付けをするのか。洗濯は?掃除は?庭には草が伸びて…

 バンクーバーとトリノ〜女子フィギュアに思う〜

バンクーバーで演技を終えた浅田は、「悔しい……」と涙で言葉を詰まらせた。キムヨナと浅田真央。N0.1の座をかけての二人の戦いは、ジュニア時代にまで遡る。これまで浅田は、敗れたときでさえ、王者としての矜持を持ち続けていたように見えた。 金メダルを逃…

 『カールじいさんの空飛ぶ家』〜夢をみるということ

どこのうちでも見かけられる光景だが、うちの娘も、小さい頃、よく一人遊びをしていた。「○○ちゃん」という架空の友達がお気に入りの様子だったが、相手がまるで眼の前に存在しているかのように振舞っていたのを思い出す。 それを眺めていると、娘の空想の中…

 仕事との距離感

「謙虚に受け止める」というのと「必要以上に卑下しない」ということの両方ができてないとダメですよね。 自分がやった結果に対しての距離感というのかな。そういうのってすごく大事で、若い人を見てると、できてないんですよ。やっぱり。 Wii Fitなどに関わ…

 イーグルスのことなど

考えがまとまらないから書かないのか、書かないからまとまらないのか……、そんなつまらないことを考えながら、たらたら書き始めている。 地味に応援してきた東北楽天ゴールデンイーグルスが、北海道日本ハムファイターズに敗れ、今季のプロ野球も終わった。 …

 森山直太朗

3年くらい前だろうか、ミュージックフェアで森山直太朗が『ハナミズキ』を歌うのをたまたま耳にしたことがある。 「空を押し上げて 手を伸ばす君 五月のこと……」 最初のフレーズが聴こえてくると同時に、空に向かって伸ばす手と青空が見えたような気がした。…

 『グラントリノ』〜人の生きる姿をきめ細やかに描く

次の仕事の段取りなどを考えながら、何をするでもなく勤務先の敷地を歩いていたとき、すぐ傍らを燕がツーと滑っていった。はっとして眼で追うと、病棟の車寄せの軒に巣があるのが見えた。雛がいるのか、ピィピィと声が聞こえてくる。耳を澄ますほどでもない…

 ブログを書くのが嫌になるとき

結局、コラムのようなものを相も変わらずだらだらと書き続けているわけですが、どっちでもいいようなことしか書いていないなぁ、なんて今更ながら思ってます。一番問題なのは、論理的に話を展開しているようにみえて、論拠として客観的に正確な事実を集めて…

 世界フィギュア 2009

ジュベールやチャンが宙を舞う。彼らの鮮やかなジャンプを見るたびに、心が躍る。 「いいジャンプの条件とは?」と問われれば、高さ、飛距離、スピードと答えたい。そのダイナミズムとパワーこそが、私を惹きつける。私にとってのジャンプの魅力とは、優美さ…

 WBCが終わった

WBC決勝は近来稀にみる内容の濃い、面白い試合であったが、ゲーム観戦の面白さってなんだろうと考えてみたとき、[観衆の感じる面白さ] = [ゲーム自体の面白さ]+[ゲームにかける想いの強さ]+[ゲームの勝敗への満足度]という図式を思いついた。 この図式から…

 山下達郎 PERFORMANCE 2008-2009

大学の夏休みに、友人と沖縄へ行ったことがある。今から26年余り前の話だ。 自由にできる資金も乏しく、行きも帰りも船を使った。夜のうちに大阪南港を出航し、翌日は丸々1日海の上、次の朝になっても船はまだ洋上をのんびりと走っている。金は使わないが、…

 銀座眼科での近視手術事故に思う

私は、専門医としての資格を持っていない。 私が持っているのは、医師免許証、日本医師会認定産業医だけで(ケアマネージャーも持ってはいるが、もともと介護事業や介護保険の仕組みを理解するために取得したもので、現在も今後も、その資格で活動するつもり…

 09' 日本アカデミー賞

先日、たまたま点けたTVで日本アカデミー賞の中継をやっていた。『おくりびと』がほぼ一人勝ちの様相だったが、木村多江が主演女優賞をとった時は、なんだかほっとした。 あまり賞の行方には関心がない方なので曖昧な記憶で恐縮だが、これまでも日本アカデミ…

 15秒ルールってなんだろうね

私の周りにいるプロ野球ファン(といっても、家族のことだが……)の声を聞くと、15秒ルールには軒並み反対のようだ。 1球あたりの持ち時間を短くすれば、労せずして試合時間の短縮に繋がるという発想には、あまりに単純で能天気な感じを受ける。ペナルティー…

 タイトルが変わりました

「この頃、父さんは語り始める前に寝てしまってるよね。」 休日の朝、エントリを書いていると長男が愉快そうに絡んできた。 「そう、早寝・早起き。」 「早寝・早起き、朝ごはん!」 長男の元気のいいリフレインが、朝の気分に似つかわしく清々しかった。 「…

 ご無沙汰していました

なんだかんだで、半年以上ブログから離れていました。 今回は、しばらく休もうといった積極的な気持ちもなく、「ただ書かない」日が続いただけだったように感じています。ブログを書くどころか、パソコンに向かうことさえ、なんとなく億劫になり、気がつけば…

 『ぐるりのこと』を観てぐるりのことを想う

「今日はどうだった?」 映画を観て帰ると、いつも妻がこう尋ねる。 妻は、どちらかといえば、家でごろごろしながらTVドラマを観るのが好きで、面白い映画と聞けば自分も……、というところはない。どうも映画の内容よりも私が楽しんできたかどうかが気になる…

 『西の魔女が死んだ』

学校に行くことを拒んだ女子中学生まいが、自然に囲まれた山荘でおばあちゃんと一緒に魔女修行と称する生活を始める。魔法を修得するわけではない。魔女修行とは、即ち、「自分で決める力、決めたことをやり遂げる力」を養うこと。おばあちゃんとの生活で、…

 奈良へ行ってきた(下)

天理駅から出発し、郵便局のあたりで早くも腰にこわばる感じが出てきた(どのくらいの距離か興味のある方はGoogleなどで調べてください。笑えるくらいの距離です)。山の辺の道を辿るつもりで出発したものの、まだそのスタート地点にも立っていない……。 不安…

 奈良へ行ってきた(上)

自転車を立ち漕ぎしながら、坂道を登る。初夏の陽射しはすでに十分に強く、汗がすぐに吹き出してきたが、頂上を目指してひたすら漕ぎ続ける。 「立ち漕ぎなんて学生の頃以来かも……」 記憶を懐かしんでいるうちに、てっぺんを越え下り坂に入った。涼しい風が…

 5月からニートになります

突然ですが、4月30日で今の職場を辞めることになりました。5月からは無職です。なんでもニートを名乗ってよいのは35歳までだそうで、全くのオーバーエイジ枠です(笑)。 辞めた理由は、一言で言ってしまえば、経営者のやり方が気に入らなかったからです。 …

 安藤美姫の魅力

世界フィギュア選手権が始まる。 女子では、浅田真央と金姸兒の力が抜けており、安藤美姫がそれを追う形かと思う。 昨季、浅田は成長した体と自分本来のスケートとのバランスを取ることに苦戦していたように見受けられ、金はコンディション面での問題を抱え…

 どうして時代劇か?

やらなければいけない仕事がどんどん溜まってきている。地道に一つずつ片付けていけばそれで済むことなのだが、山積みになった仕事が限度を超えてくると、ますますやろうとする気力が萎えていく。 以前ihr442さんと約束した映画の感想をまだ伝えていないこと…

 雪の日に思いつくまま書いてみた

年末年始はやけに冷え込んだが、その後は暖かくなったり寒くなったりの繰り返し。やっぱり暖冬なんだろうかと思いつつ、地球温暖化のことなどもおぼろげに心配になってもくるが、かといって真剣に考え込んだりすることもなく過ごしていると、ここのところの…