岡島の憂鬱、中里の戸惑い


今年の日本シリーズ、実のところあまり観戦できていない。が、そんな中、舞台を北海道に移しての第3戦は、途中からとはいえ、じっくりと腰をすえて観戦し、シリーズを堪能することができた。


2人の投手が印象に残った。


岡島秀樹
岡島は、開幕直前に巨人から移籍し、武田久とともに、北海道日本ハムファイターズ優勝の原動力となった「層の厚い」中継ぎ陣の一員としてチームを支えた。優勝への功労者の1人と言ってもよいと思う。そして、7年連続40試合以上登板という実績も、実に立派なものである。
しかし、今季観戦した交流戦では、「投手、岡島」が告げられたとき、阪神ファンの集うスタンドには、緊張感の抜けた安堵の空気が漂うのを感じた。セの野球ファンにとっての岡島は、リリーフ失敗を繰り返す「ヘタレ」のイメージしかなかったようだ。


しかし、今季の岡島は、見事に復活した。


岡島といえば、奥さんに「あなた、キャッチャー見てないでしょ?」と言われて、喧嘩になったという、ノールック投法が御馴染みであるが、大きく曲がり堕ちるスライダー、(球速以外、あまり違いがないようにも思える)カーブ、そして、それに織り交ぜられるストレート……どれもなかなかの球である(スクリューもあるが、メインの球ではないので省略)。
巨人時代の岡島を観て感じていたのは次の3点だ。
1) 縦の大きな変化を持ったスライダー、カーブが組み立ての中心。
2) 縦の変化球に続くストレートが以外に効果的だが、ストレートを多投するとつかまる。
3) ボールが先行したり、粘られて球数が増えてきたりすると、四球で自滅する。
今季の岡島を支えていたのは、この特徴を上手く生かした中嶋の好リードだと思う。日本シリーズ第3戦8回表の福留へのワンポイントでは、それが如実に出た。
緩く大きな縦の変化でとにかくストライクを先行させる。そして、外角低めのストレートで3球勝負。意表をつくだけに留まらず、岡島の持ち味をも生かした、胸のすくような好リードだった。


それでも、翌日の『めざましテレビ』で、大塚さんは、「武田勝武田久MICHEALのリレー……」とのお言葉。
ヘタレのイメージが染み付いた岡島の憂鬱は、まだまだ続くのかと呆れたが、流石に第4戦の好リリーフの前には、このイメージも払拭されたのではないだろうか。


もう1人は中里篤史
2001年、シーズン終盤の巨人戦で鮮やかな1軍デビューを果たしたが、翌春のキャンプで階段から転落し、右肩を負傷。長い間、1軍のマウンドから遠ざかっていた逸材だ。


今季、消化試合での広島戦で勝利を挙げてはいたというものの、本当に久しぶりにその姿を見た。
セギノールに投げたストレートは、とにかく、もの凄かった。2段ロケットのように加速するとでも言おうか。今季、テレビの前で思わず「おおっー」と唸ったストレートは、この中里のストレートと藤川のストレートだけだ(昨季は、涌井のストレートにも唸ったが、今季の涌井はつまらなくなった。ちなみに球場でじかに目にした中では、武田久のストレートがちょっと衝撃だった)。


しかし、セギノールを三振にとった後、落合監督がマウンドに行ったのは、いただけない。この「間」が、中里から勢いを奪い取ってしまったように私には感じられた。
できれば、次の稲葉にも、ストレートでグイグイ勝負する中里の姿が見たかった。
ホームランを打たれた中里は、マウンドでただ戸惑っているように見えた。
ボールになる落ちる球を打った稲葉が素晴らしいといえばそれまでだが、中里には、来季までにあとひとつキレのある変化球を身につけて欲しいと思った。いい変化球がないために埋もれてしまうには、あまりに惜しい。それほどのストレートだった。
楽しみな投手がまた1人増えた。




追記〕 つい先ほど、北海道日本ハムファイターズが優勝した。個人的には、第3戦で福留を三球三振に討ち取って(第4戦では更にダメを押して)以後の打撃を封じ込めるきっかけを作った岡島は、このシリーズの陰のMVPだと思っている。岡島、中里の両投手、本当に復活おめでとう。