独立リーグの二つの方向性


四国アイランドリーグが存続していくためには、リーグが地域アイデンティティーを高めていくという効用を持つことが必要だろう。
独立リーグの存在が、地域アイデンティティーを高めていく。それは、つまり、お国自慢として「 野球リーグのある生活 」が語れることであり、四国の人々がアイランドリーグを介して結びついていくことである。四国四県はお互いライバル心も強い。野球リーグを介しての地域アイデンティティーを育てるのには絶好の地だと思う。
具体的には、こういうことだ。職場や学校や住宅街で、挨拶のように独立リーグの話題から人と人との会話が広がる。商談で、商店街で、町内会で、タクシーで、飲み屋で、クラスで……。独立リーグの観戦が日々の生活における行動の選択肢に入り込む。その結果、独立リーグを介して、地域に住む人と人との繋がりが広がり、強化され、地域に存在するさまざまな組織が活性化し、さらには地域社会が活性化していく。四国アイランドリーグの場合、四国の活性化が期待される。
そのような形で独立リーグが発展し、同時に地域アイデンティティーが育まれていく形が理想だろう。実現されれば、入場料収入だけでなく、自治体の支援や地域のスポンサー契約の増額も期待できる。


そのためには、今よりも、もっともっと四国アイランドリーグに興味を持つ人が現れ、球場へ足を運ぶ人が、とにかく増える必要がある。そして、独立リーグが地域のエンターテインメントとしての確固たる地位を築く必要がある。
シンプルに考えれば、試合内容が面白くさえなれば、独立リーグに興味を持つ人たちも増えていくだろう。四国には野球好きは多い。


試合内容を面白くするために、リーグの実力を高めていくというのは正論だと思う。しかし、実力的にNPBに近づくことは、プロ入りを断って独立リーグ入りする選手が現れない限り絶対に不可能であり、そのような選手が現れる可能性は皆無である。失礼ながら、今の独立リーグに入ってくる選手の実力では、アマチュアとの線引きも困難なレベルであろう。
プロレベルの試合を観ることができるようにするために、ユニークな良い方法がある。
今季試みられた独立リーグ選抜とNPB所属球団二軍との交流試合というのも、一つの方法ではあるが、より効果的なのは、プロ野球の2軍選手やNPBの指導者を独立リーグに預けるという方法だ( 『 見物人の論理 』 「 地域リーグの生きる道 」「 プロ野球に二軍は必要か 」)独立リーグマイナーリーグ化といったこの方法、リーグで行われる試合のレベルを上げるだけでなく、才能を持ちながらファームでも出場機会に恵まれない選手に実践の場を与えるという点でも、メリットは大きい。
問題は、指導者だろう。NPB経験者、社会人野球、高校野球、少年野球などから選手育成の実績のある人材を広く募るしかないだろうが、プロ、アマチュアの垣根を越えた指導者養成システムができるだけ早く確立されることが望まれる。


ところで、リーグのレベルを向上させることなく、試合を面白くする方法はないだろうか。
例えば、高校野球
アルプススタンドでの応援は、高校野球の面白さを演出するのに欠かせない要素であるが、彼らの熱狂を支えているのは、同じ学校、同じ郷土といった同胞意識だ。高校野球では、地方の代表が集ってのトーナメントという形式をとっているため、他の地方の学校の試合と自分の出身地方の学校の試合では、当然、試合への関心、集中度が違ってくる。この同朋意識が、高校野球の人気を支える大きな要素となっている。
さらに低いレベルで考えてみる。学校での校内球技大会などではどうだろう。運動会ではどうだろう。
この際、無料のイベントだからとかいうことは敢えて無視して、その面白さを根本で支える要素はなんだろうかということを考えてみる。それは、同じクラスの仲間、あるいは肉親や近所の知り合いといった、選手達への親しみに他ならない。
このように第三者から見ると他愛のない内容のものでも、観客とプレーヤーの関係が変われば、十分エンターテインメントとして成り立つのである。芸能人の野球大会やフットサルなども、そのような事実の上に成り立っているものと言えるだろう。
野球リーグの場合、戦力均衡ということが前提条件ではあるにしても、ゲームそのものの内容や質が変わらなくても、リーグと観客との関係がより親密になることによってエンターテインメントとしての可能性は広がっていく。すなわち、言い古された言葉ではあるが、「 地域密着 」ということが、独立リーグが地域のエンターテインメントとしての地位を築くのに最も大切なものなのではないか。


地域密着。これを達成し、観客動員に結びつけるものとしては、ボランティア活動なども含めたプロモーション活動が何よりも大切だ。つまり、リーグの選手達と地域住民の距離をより近づけることができる活動を考えるべきだろう。現状としてどの程度プロモーション活動が行われているのか調査もしていないので恐縮だが、ここはブログ。敢えて思いつくまま、ずけずけと書き連ねてみる。
まず、広く意見を募ることが大切だろう。そのためには、ブログなどを開放して不特定多数の集合智を利用するという方法が良いだろう。特に地元四国の人の意見を大切に拾い上げるよう心がけて欲しい。
ボランティア活動は、地域の人たちと共に行動することで親しくなるというメリットがあるのは勿論だが、リーグや選手の社会的地位の向上にも寄与する。海外に比べ、まだまだ日本のプロスポーツ選手はボランティア活動に積極的でない印象があるが、ぜひ取り入れていってもらいたいものである。
地方のメディアを積極的に利用することは言うまでもない。前のボランティア活動などは、ニュースとしても価値のあるものだ。石毛代表や顧問の人たちの知名度も、できるだけ積極的に活用すべきだろう。
子供達へのプロモーションも重要だ。彼らが将来の野球人口の担い手として大切であるのは勿論だが、それ以上にその多感さ、影響されやすさを見逃す手はない。子供はプロモーションの効果が最も出やすい対象なのだ。そして、子供達が独立リーグに惹かれて観戦しようとすれば、必然的に保護者としての大人たちも引っ張ってくる。一石二鳥だ。
子供達を対象としたプロモーション活動として最も簡単に思いつくものは、野球教室だろう。野球少年たちの指導に留まらず、遠足などの校外活動を利用して一緒に練習するのもいい。あるいは、三角ベースであるとか、キックベースなどのミニゲームを行うという方法もある。さらには、逆に、選手達が学校行事に参加するという方法もあるだろう。
とにかく、球場に客さえ集まれば、リーグの盛り上がりは期待できる。ある程度以上の観客が集まれば、独立リーグの応援を介して、スタンドの中に自然発生的に一種の連帯感は生まれてくるものだ。そうなれば、球場のスタンドが持つ独特の空気が、ゲームとはまた独立した新たな魅力を持ち始めるようになる。球場を包む空気を求めて人が集まるようになれば、成功への道も自ずと開けていくのではないだろうか。( 10月7日エントリープロ野球ファンのフィールド オブ ドリームズ (2)
ゲームの面白さにそれなりに自信があるならば、とにかく球場に来てもらう方法として、アルビレックスがやったように、タダ券を配るという思い切った方法もある。子供に配って、大人を有料で引っ張り込むことができれば、その効果も大きい。とにかく、人の足を球場へ向けるあらゆる方法を考えていくことが必要だろう。


マイナーリーグ化という方法でNPBの底辺を支える方向と、いわば地域のアマチュア野球の頂点に立つ地域密着型の方向。独立リーグにはこの2つの進むべき方向があると思う。そして、その2つの方向性は二律背反するものではなく、お互いに補完し合うものだと思う。
四国アイランドリーグはまだ産声を上げたばかりだ。さまざまな声をできるだけ拾い上げ、いろいろな道をしっかりと模索していってくれることを願っている。