負けるな、安藤美姫


2002 / 2003から昨季までの、飛ぶ鳥を落とす勢いだった安藤からは、今季の姿を想像することはできなかった。
絶好調の頃、メディアをはじめ大人たちは、競うように、こぞって安藤に群がった。
そうした中、2004 / 2005の安藤のコメント(Number 620 「彼女はもっと強くなる」)で、ちょっと気になったところがあった。インタビューは、全体として、シーズンをうまく乗り切り、成績も残せてホッと一息といった基調で占められていた。が、(具体的な内容は逐一覚えていないが)「もうすぐ浅田にはかなわない時が来る。あと少しで自分の時代は終わり。」というような、焦りにも似た不安も同時に感じられるものであった。
4回転サルコウは安藤の誇りであり勲章だ。しかし、リンクで軽々とトリプルアクセルを決める少女を見るにつけ、安藤は跳べなくなってきていた自分のアイデンティティーが揺らぐのを感じてはいなかったか。少女期が過ぎ、重くなっていく体……。足の故障のこともあるだろうが、そうした心が重くのしかかって、さらに安藤を飛べなくしていったのではないだろうか。


安藤の魅力はその天真爛漫さにある。キャラクターを生かした、明るい溌剌とした演技を彼女に求める声も多い。全日本での演技構成は失敗だと指摘する向きもある。
しかし、素人の意見で恐縮ではあるが、私は、彼女の滑りの魅力は、彼女のキャラクターと全くかけ離れたところにあるように感じている。その滑らかな、流麗なエッジ使い(このような言葉があるかどうかは知らない)には、なんとも女性らしい優しさを感じる。
確かに、全日本での演技構成はメリハリが乏しい欠点があったが、彼女の滑りの持ち味を大切にした演技構成だったことは評価してもいいと思う。


女子フィギュア界の広告塔として、安藤は愛くるしい笑顔を絶やさずよく頑張ってきたと思う。そんな彼女に群がったメディアは、トリノを前にしたこの時期に、静かにひき始めている。酷薄なものだと思う。
コンディションの悪さを乗り越えて、やっとの思いで掴んだ代表の座……。今季の彼女の演技は、確かに日本のベスト3にも入れないものかも知れない。しかし、そんな肉体的にも、精神的にもよくないコンディションの中、自分と戦い、グランプリシリーズで地道にポイントを積み上げてきた結果の代表である。


負けるな、安藤。胸を張れ。
そして戦う心で、トリノのリンクで4回転に挑んで欲しい。
結果がどうあれ、そうすることで再び安藤が飛び立てることを心より願う。