イチローの真実


7月31日の対レンジャース戦で2本塁打を放ってから、イチローの周囲がまた騒がしくなって来ている。
イチローはホームラン打者を目指しているのか?」
今季のイチローのバッティングを見ていると、なるほど正鵠を射ていると思う。


イチローのバッティングはデビュー以来進化を続けて来た。
振り子打法に始まる彼のバッティングスタイルは、これまでも少しずつ変わり続けてきたが、一貫して一つの方向性を持っていた。
即ちどんな球が来ようとも、自在にスイングの軸を移動することで、球を捕らえようとするスタイルだ。
これまでの変遷の中で、昨季のバッティングはひとつの完成形を示したと考えられる。
自在にスイングの軸を移動し来た球に対応するとともに、あたかも硬式テニスのラケットのようにバットを振り抜く独特のバッティングスタイルだ。
このテニスのようなスイングは、特に前に重心が移動した際(すなわちその時には必然的にスイングの軸も前に移動している)に強く鋭く振りぬくための大きな武器になっている。
メジャーでのシーズン最多安打記録まで達成したこのバッティングを果たしてイチローは捨てようとしているのか?


現在イチローの打率は三割には到達しているとはいえ、ファンを十分に満足させるだけのレベルには達していない。
果たしてイチローはバッティングを崩してしまっているのか?
このことに関してはhttp://sportsnavi.yahoo.co.jp/baseball/mlb/05season/players/ichiro/column/200506/at00005206.htmlに詳しい。
彼はけっして自分のバッティングを見失った訳ではないようだ。
今季のイチローを見ていて既にお気付きの方も多いと思うが、明らかに昨季までと異なる点がある。
内野安打が極端に少ないことだ。
135安打中18本(8月3日現在)。
打率があがらない主な要因はここにある。
内野安打が減った原因を検証するために以下のことを考えてみた。
原因として考え得るものは以下の3つに集約されると考える。

    1. イチローのシフトによって打球が正面を突き、安打が阻まれている
    2. イチローの走力の衰え
    3. バッティングスタイルの変化による、バッターボックスから走り出す第1歩目の遅れ

1.に関しては、私の見る限り2シーズン前にほぼ確立したシフトの形が完成し、昨季のうちにイチローはそれを克服したように思われる。さらに、もし仮にこれが原因だとすると、内野安打以外の安打数も減るはずである。
2.に関してはどうだろう。
客観的に検証するデータがなくて恐縮であるが、今季の盗塁その他のベースランニングや守備での走力から、特に衰えは感じられてこない。
やはり、消去法的にも3.今季のイチローのバッティングスタイルの変貌の結果と考えるのが自然であろう。
逆に言えば、内野安打の減少が彼のバッティングが変化しつつあることを裏付ける一つの証拠となっている
さらに昨季はセンター方向への安打が一番多く、次いで内野安打が多かったことに比べ、今季は右方向への安打が最も多くなっていることも引っ張り主体のバッティングへの変貌を予感させる。
彼の現在のバッティングスタイルは先に引いた大本大志の新しいコラムhttp://sportsnavi.yahoo.co.jp/baseball/mlb/05season/players/ichiro/column/200508/at00005577.htmlに詳しい。
打撃練習でのイチローの打球がオルルッドやブーンよりも遥かに飛ぶことはセーフコ・フィールドを訪れるファンの間では以前からよく知られた事実だ。
それだけに、地元シアトルではオールスターでのホームラン競争イチローが参加することを期待する向きも多かった。
今、イチローのバッティングはできるだけ軸を一つに固定して、さらに強く振りぬく長距離打者のスタイルへと変貌を遂げつつある。


最後に批判を承知で、独断と偏見に満ちた私見を述べさせていただく。
何故、シーズン最多安打記録を塗り替えたバッティングを捨て去ってまで、イチローは長距離打者への道を歩もうとしているのか?(そうしようとしていないなら御免なさい。)
そのデビューから抜群のスピードをもってメジャーリーガーに衝撃を与え続けたイチローではあったが、シーズン最多安打記録を塗り替えてまでも「内野安打がなければタダの平凡な好打者」と揶揄される向きはけっして少なくはなかった。
そのことに彼の高いプライドが、我慢できなかったのではないか。
ひとつの頂点を極めた時、そこに安住することなく、そのプライドの全てを賭けて今イチローは新たなステージへ歩みだそうとしているように思われる。
今シーズンのイチローはスリリングで刺激的だ。
彼には三割・三十本塁打・三十盗塁をメジャーでぜひいつの日か達成して欲しい。
そして、さらには夢の四割までも成し遂げて欲しい。
進化し続けるイチローを私は応援し続けたい。