本・映画・TV・音楽など

『万引き家族』〜家族とはなんだろう〜

安藤サクラが尋問されるシーンを観ていて、あるフレーズを思い出した。 「いろいろ事情があるんだろうよ……」 伊集院静の『大人の流儀』に収められている『妻と死別した日のこと』の冒頭の一節である。 伊集院少年と彼の弟が、夕闇迫る路地で、女湯の高窓に張…

まど・みちお さんを偲ぶ

「耳からね、こんなところからね、毛が生えているんですよ。『これは、詩にするしかない!』と思いましたね。」と、詩人は、嬉しそうに語っていた。 老いていく自分と、その自分の中から新たに生まれてくる耳毛という生命の息吹。その対比の面白さと、自分の…

 『ペコロスの母に会いに行く』〜人と記憶〜

見当識という言葉をご存じだろうか。 見当識とは、自分を取り巻く環境の中で、自分が置かれた状況を正しく認識する能力のことである。 すなわち、時間の流れの中で「今という時」を感じ、自分が存在している「場所」を知り、さらに、周りの人と自分との間に…

 『カールじいさんの空飛ぶ家』〜夢をみるということ

どこのうちでも見かけられる光景だが、うちの娘も、小さい頃、よく一人遊びをしていた。「○○ちゃん」という架空の友達がお気に入りの様子だったが、相手がまるで眼の前に存在しているかのように振舞っていたのを思い出す。 それを眺めていると、娘の空想の中…

 森山直太朗

3年くらい前だろうか、ミュージックフェアで森山直太朗が『ハナミズキ』を歌うのをたまたま耳にしたことがある。 「空を押し上げて 手を伸ばす君 五月のこと……」 最初のフレーズが聴こえてくると同時に、空に向かって伸ばす手と青空が見えたような気がした。…

 『グラントリノ』〜人の生きる姿をきめ細やかに描く

次の仕事の段取りなどを考えながら、何をするでもなく勤務先の敷地を歩いていたとき、すぐ傍らを燕がツーと滑っていった。はっとして眼で追うと、病棟の車寄せの軒に巣があるのが見えた。雛がいるのか、ピィピィと声が聞こえてくる。耳を澄ますほどでもない…

 山下達郎 PERFORMANCE 2008-2009

大学の夏休みに、友人と沖縄へ行ったことがある。今から26年余り前の話だ。 自由にできる資金も乏しく、行きも帰りも船を使った。夜のうちに大阪南港を出航し、翌日は丸々1日海の上、次の朝になっても船はまだ洋上をのんびりと走っている。金は使わないが、…

 09' 日本アカデミー賞

先日、たまたま点けたTVで日本アカデミー賞の中継をやっていた。『おくりびと』がほぼ一人勝ちの様相だったが、木村多江が主演女優賞をとった時は、なんだかほっとした。 あまり賞の行方には関心がない方なので曖昧な記憶で恐縮だが、これまでも日本アカデミ…

 『ぐるりのこと』を観てぐるりのことを想う

「今日はどうだった?」 映画を観て帰ると、いつも妻がこう尋ねる。 妻は、どちらかといえば、家でごろごろしながらTVドラマを観るのが好きで、面白い映画と聞けば自分も……、というところはない。どうも映画の内容よりも私が楽しんできたかどうかが気になる…

 『西の魔女が死んだ』

学校に行くことを拒んだ女子中学生まいが、自然に囲まれた山荘でおばあちゃんと一緒に魔女修行と称する生活を始める。魔法を修得するわけではない。魔女修行とは、即ち、「自分で決める力、決めたことをやり遂げる力」を養うこと。おばあちゃんとの生活で、…

 どうして時代劇か?

やらなければいけない仕事がどんどん溜まってきている。地道に一つずつ片付けていけばそれで済むことなのだが、山積みになった仕事が限度を超えてくると、ますますやろうとする気力が萎えていく。 以前ihr442さんと約束した映画の感想をまだ伝えていないこと…

 『クワイエットルームにようこそ (監督 松尾スズキ)』 〜繋がることができない人のかなしみ

「こころの病」とみなされている人たちがいる。 もちろん、薬物療法をはじめとした医学的管理を絶対的に必要としている人たちもいる。けれども、世間になんとか折り合いをつけて生きている人たちとそれほどかけ離れたところがない人たちもたくさんいる。逆に…

 『アヒルと鴨のコインロッカー』(伊坂幸太郎)〜意識が翻弄される面白さ〜

自分がいま生活している世界は、自分の五感で感じ取った情報を元に、自分の意識の中で再構成され、認識された世界である。それは、自分と同時に同じ事実を経験したひとに認識されている世界と、殆どの場合、それほど違うものではない。 しかし、感じ取ったり…

 『悪たれの華』(小嵐九八郎 著)〜情念の爆発する瞬間〜

読書の対象になるカテゴリーは、自然、限られたものになってくる。 私、時代劇は嫌いではないが、時代小説というものを殆ど読んだことがない。苦手というのではない。たとえ目にすることがあっても、視野に入らないという感じだろうか。 このカテゴリーで話…

 『フラガール』〜女たちのプライド〜

ここのところ、フラダンスが静かなブームになっているらしい。そのきっかけとなったのが、映画『フラガール』だ。 MovieWalkerで「作品アクセス」、「見てよかった!」のいずれも1位、もれ聞こえてくる評判も良いものばかりだったので、随分以前から気にはな…

    『地下鉄に乗って』(浅田次郎 著)〜せつなくてかけがえのない愛のかたち〜

先日、伯父の通夜があった。 読経の流れる通夜の席で、祖父の葬儀の日のことを何となく思い出した。 寝たきりになっていた祖母をその2年前に亡くした後、祖父は軽い認知症になっていたようだ。下の世話やら食事のわがままやらに両親は振り回され、日毎に疲れ…

   映画 『 UDON 』を観て

私はさぬきうどんの本場、香川県の片田舎で生まれた。 香川県出身者の多分にもれぬ大のうどん好きで、たとえ毎日でも、喜んでうどんが食える人間であると自負している。 「これからはうどんだよ。お兄さん、うどん屋を始めなさい。」 お気に入りのラーメン屋…

 「博士の愛した数式 (新潮文庫)」原作を読んで

映画「博士の愛した数式」を観た後、原作の小説も読んでみた。比較しての感想を前のエントリーのコメント欄に書いてはみたものの、随分と長くなったこともあり、コピペして新たにエントリーとしてあげることにした。コメント目的で書いたため、「です、ます…

 映画『博士の愛した数式』に流れる静かな時間

ご近所との井戸端会議で、情報を仕入れてきた妻が言った。 「『博士の愛した数式 (新潮文庫)』の映画、とってもいいみたいよ。もうすぐ、(興行が)終わるらしいから、いかない?」 『博士の愛した数式』は、04年の読売文学賞、本屋大賞受賞作である同名小説…

 『野ブタ。をプロデュース』〜 脚本家 木皿泉の温かいまなざし 〜

昨年11月から今年にかけて、修二と彰が歌う『青春アミーゴ (通常盤)』は爆発的に売れたようだ。70年代歌謡を想わす哀愁を帯びたメロディーと、適度な臭さやせつなさを感じさせる歌詞は、私のようなおやじにも馴染みやすく、それでいてドライブ感のあるリズム…

 国語辞典の怪

ときどき子供たちと一緒にweb pageを見ることがある。いつだったか、娘とwebの記事を読んでいたとき、何度も読みかけのままスクロールされたことがあった。注意すると、「おとうさん、遅いよ」と笑いながら怒られた。「お父さんはじっくり読んでいるからだよ…

 生きるための知恵

しばらくぶりで、ブログに向かっている。 休んでいる間、あれも書こう、これも書こうと思いついたものはたくさんあったのだが、殆んど忘れてしまった。いい加減なものだ。 今回の休載は、本業が多忙になったこととPCの不調が主な理由だったわけだが、振り返…

 自立と壁

毎週楽しみに観ていた女王の教室|日本テレビが終わってしまった。 観ておられなかった方のために簡単に説明すると…… 天海祐希演じる女性教師が、受け持ったクラスの小学生を「これでもか」とひたすら苛め抜く話なのだが、面白いことに苛めに耐え抜いて一人…